相続税申告のポイント㉒~共同ビルの敷地、マンション敷地の評価

 下の図のような土地の上に共同ビルを建築している場合のその敷地は、その敷地全体を一画地の宅地として評価した額に、各土地の価額の比を乗じた金額により評価するとされています(国税庁質疑応答事例「宅地の評価単位-共同ビルの敷地」)

 

他人所有の土地も含めた敷地全体で評価してから、あん分することに注意してください。

この「価額の比」とは「時価」の比をさすものと考えられますが、現実的には各土地の時価を算出することは困難であることから、同質疑応答事例では、この価額の比について次の算式によって計算して差し支えないとしています。

 すなわち、各土地をそれぞれ財産評価基本通達により評価した相続税評価額の合計額に占める、対象地の相続税評価額の割合により計算してもよいということです。 

ただし、土地の筆数が多い場合には、他人所有の多くの土地をひとつずつ評価する作業をしなければならないわけで、それなりの手間と時間を要することになります。 

なお、同質疑応答事例では更なる簡便法として、価額の比について、各土地の地積の割合により算出しても差し支えないとしています。 

しかし、地積の割合により按分するということは、すべての土地の評価額の㎡当りの単価が同じになるということです。 

上の図のE・F・G・Hの各土地のようにそれ以外の土地に比べ接する路線価の額が低いとか、E土地のように不整形地であるなど画地の条件が悪いような場合には、地積の割合により按分すると不利になってしまいます。このような場合には、相続税評価額の割合により按分すべきであると筆者は考えます。 

(参考)ここでは「共同ビル」という表現を使っていますが、上の図のような土地と建物の所有形態である場合には、建物の構造や用途に関係なく同様の取扱いをするものと考えられます。

マンション敷地の評価

  マンション敷地の評価の基本的な事項については、当ブログの『やさしい財産評価入門⑳~マンション敷地の評価』の記載を参照してください。

 

 商業系の地区に所在し、比較的奥行距離が長いマンションの敷地の場合、「容積率の異なる地域にわたる宅地(財産評価基本通達20-7」に該当する可能性が考えられます。対象地の都市計画図を必ず確認するようにしてください。(「容積率の異なる地域にわたる宅地の評価」については、当ブログの「相続税申告のポイント⑲~容積率の異なる地域にわたる宅地の評価」を参照)

 

また、広大なマンション敷地については「地積規模の大きな宅地の評価(財産評価基本通達20-2」の適用が考えられますので、規模格差補正の適用のチェックも忘れないようにしてください。(「地積規模の大きな宅地の評価」ついては、当ブログの「相続税申告のポイント⑬~地積規模の大きな宅地の評価①」以降を参照)

 

さらに、規模の大きいマンションの敷地については「歩道状空地」の有無も確認した方がよろしいと考えます。

①都市計画法所定の開発行為の許可を受けるために、地方公共団体の指導要綱等を踏まえた行政指導によって整備され、②道路に沿って、歩道としてインターロッキングなどの舗装が施されたものであり、③居住者等以外の第三者による自由な通行の用に供されている「歩道状空地」は、財産評価基本通達24(私道の用に供されている宅地の評価)に基づき評価することとなり、その歩道状空地が不特定多数の者の通行の用に供されている場合には、その価額は評価しません(評価額がゼロということです。国税庁質疑応答事例「歩道状空地の用に供されている宅地の評価」参照)

 なお、対象地にこのような歩道状空地があった場合には、(歩道状空地部分が分筆されている例は少ないでしょうから)歩道状空地部分の地積を把握する必要があります。

(参考1)この歩道状空地の取り扱いは、平成29228日判決の最高裁判決により(従来の)取り扱いが変更されたものです。

 

(参考2)筆者は、都内の「第一種市街地再開発事業」により建築された大規模マンションで、歩道状空地の評価をした経験があります。その事業は都市計画法上の「地区計画」も策定されているもので、地区計画の計画書類の中に歩道状空地の設置についても記載されていました。ただ、その計画書類の中には歩道状空地の幅員とおおよその延長距離が書いてあるのみで、歩道状空地の正確な地積は記載されていなかったため、竣工図面を別途入手し、図面求積の方法で歩道状空地の地積を算出しました。(ちなみにそのケースでの歩道状空地の地積は全地積の11%を占めていました。) 

(参考3)東京都の各区の都市計画情報サービス等のホームページから、第一種市街地再開発事業や地区計画の概要に関する情報まで取得できるところもあります。都市計画図を確認する際に、容積率や都市計画施設予定地かどうかの確認だけでなく、細かいところまで注意して情報を確認するとそのような情報にあたる場合もあります。またGoogleマップのストリートビューも、対象地に歩道状空地があるか確認するには有用です。 

令和6年1月1日以降の相続、遺贈又は贈与により取得した居住用の区分所有財産(いわゆる分譲マンション)の評価については、「区分所有補正率」を乗じて評価する旨の改正がされていますので、ご注意ください。

(当ブログの『相続税申告のポイント㊱~居住用の区分所有マンションの評価の改正①』参照)

 

次回に続く