前回は、近似整形地を求める必要のない土地の例(対象地と隣接整形地を合わせた土地が整形地となる例)で差引き計算について解説しましたが、実務ではそのような土地は少ないと思われ、実際には対象地の近似整形地を求めてから差引き計算を行う例の方が多いと考えます。(財産評価基本通達(20)の(4)の方法、質疑応答事例では『不整形地の評価~差引き計算により評価する場合』)
近似整形地の作図方法について具体的に紹介しているものはほとんど見当たらず、筆者も手探りで1件1件作図しているのが実情です。
近似整形地は、財産評価基本通達(20)や質疑応答事例(不整形地の評価~近似整形地を基として評価する場合)によれば、①近似整形地からはみ出す不整形地の部分の地積と近似整形地に含まれる不整形地以外の部分の地積がおおむね等しく、かつ、その合計地積ができるだけ小さくなるように求めること、②近似整形地の屈折角は90度とすること、と示されていますが、実際にこれを作図するのは大変難しいと思います。(ポイントは、隣接整形地と、近似整形地を合わせた全体整形地は、両方とも必ず矩形(くけい、すべての角が直角の長方形のこと)または正方形になることから、なるべく凸凹が少なくなるイメージで全体整形地、隣接整形地の順に作図することではないかと考えます。)
近似整形地の作図や差引き計算は、かなり手間がかかることは事実ですので、まず、おおよその全体整形地及び隣接整形地の奥行距離を算出し、全体整形地の奥行価格補正率の方が、隣接整形地のそれを下回ることを確認してから、作図や差引き計算の作業に入るのが効率的です。全体整形地の奥行価格補正率が1.00でしたら、差引き計算を行っても評価額は下がらないため、差引き計算を行うメリットはありません。
最後に、対象地が複数の路線に接している場合の、正面路線の判定の際にも『差引き計算』が登場する例を紹介します。国税庁の質疑応答事例(正面路線の判定(2))では、正面路線の判定にあたり、差引き計算により求めた1㎡当たりの価額により、いずれか高い方を正面路線と判定する、とあります。
左図の正面路線の判定
A路線 (82,000×15m+73,000×10m)÷25m×1.00(※1)=78,400円
※1 奥行距離20m(500㎡÷25m=20m<30m)の奥行価格補正率
B路線
甲、乙を合わせた全体整形地の奥行価格補正後の価額
81,000×0.95(※2)×750㎡= 57,712,500円・・・①
※2 奥行距離30m(500㎡÷10m=50m>30m)の奥行価格補正率
乙の部分の奥行価格補正後の価額
81,000×1.00(※3)×250㎡= 20,250,000円・・・②
※3奥行距離16.7mの奥行価格補正率
乙部分の奥行距離は、地積を間口距離で除して求める
(250㎡÷15m≒16.7m<20m
宅地甲の奥行価格補正後の1㎡当たりの価額(①-②)
(57,712,500円-20,250,000円)÷500㎡= 74,925円
78,400>74,925 ➡ A路線を正面路線と判定
※仮にB路線について差引き計算を行わなかった場合でも、このケースにおいてはA路線が正面路線という結論は変わらない。(B路線…81,000×0.95=76,950円)
一見当たり前のことを言っているようにも思えますが、仮に不整形地の評価において差引き計算を採用しない場合においても、正面路線の判定においては(必ず)差引き計算をしてから判定を行いなさい、という趣旨だとしたら、実務上大変なことになるように思います。(不整形地の評価において、差引き計算を行うかどうかはあくまで任意であって、強制ではありません。また、この質疑応答事例では、差引き計算を行うにあたって、隣接整形地や近似整形地を作成しない方法を紹介しており、不整形地の評価における差引き計算とは別のもののようにも思えます。)
※文中、意見に関する部分はあくまで筆者の私見です
(次回に続く)
この記事のカット等は国税庁のホームページから引用しました。